机上の空論と手記

都会で生きたい

お悔やみなんて申し上げられない

ロックスターがいなくなった。

思っていたよりずっと私の一部になっていた彼は

この一週間、私がその声に酔っている時にはもういなかった。

それなのにこの町は何も変わらなかった。

平日の昼間の電車はガラガラだし、一人泣いている私は誰の目にもうつらない。

ヘッドホンをつければいつも通り彼の声が爆音で聴こえる。

 

世界の終わりはそこで待ってると

 

いつもは聴き取りにくい歌詞が嫌にはっきり耳に入ってきて、思わずスキップボタンをタップする。次の曲のイントロが流れても、彼の声は頭にこびりついて離れない。

 

思い出したように君は笑い出す

 

誰にも見られたくないと下を向いたはずなのに、それまで見えなかった涙が落ちるのをはっきりと視界にとらえてしまった。

 

赤みのかかった月が昇るとき

 

本当に大好きだったのだ。

彼にロックンロールを教わったのだ。

 

それで最後だと僕は聞かされる

 

SNSではこんなにもたくさんの人が悲しみと悔しさと虚しさを投げ合っているのに、

周りには悲しむどころか彼の存在を知る人すらいない。

一人で抱えるには重すぎる。

どれだけ泣いても、どれだけ走っても、どれだけ叫んでも、どれだけ歌っても

どれだけ追いかけたって、そのステージを目指したって

いつか追いついたとしても

彼はもういない。