机上の空論と手記

都会で生きたい

コーヒーが飲めないまま大人に向かっている

私はコーヒーが飲めない。牛乳が入っていてもダメ。砂糖がたっぷり入った、紙パックで売られているようなものでないと飲めない。それでも特に生活に支障をきたすことなく、十六年を生きてきた。

私の好きな彼はコーヒーが好きだ。いつも昼休みに自販機で缶コーヒーを買っている。その隣で私は80円のイチゴミルクを手に持っている。人工的ないちご味の甘ったるい液体を飲みながら、ふと黒いアルミ缶に口をつける彼を見て、格好いいと思ってしまった。

いつか彼と手を繋ぐ人は、同じようにコーヒーが好きな人なんだろうか。

二人で一緒にコーヒーを飲むのだろうか。

三ツ矢サイダーとイチゴミルクを偏愛する私は、彼の隣を歩けないのだろうか。

 

そんなことを思っていた三日前の朝、彼は私の自転車のカゴに紙パックを投げ入れた。

「なにこれ」「間違えて買ってもたからあげる」

コーヒー牛乳との違いが分からないほどの、甘いカフェオレ。彼は甘い飲み物が苦手だ。

笑ってしまった。このカフェオレと彼が好きなコーヒーとでは、容器からして違うのに。

 

彼が飲めないものを代わりに飲んであげられるのなら、私が飲めないものを代わりに飲んでくれるのなら、コーヒーなんか飲めないままでいい。