机上の空論と手記

都会で生きたい

小説みたいな先輩の話

その人は私を「クジラちゃん」と呼ぶ。

私のギターに大きな鯨のステッカーが貼ってあるからだ。

一つ年上の彼とは、私が高校に入学して最初に出演したライブハウスのイベントで出会った。彼のバンドは全曲完全オリジナル、固定ファンの女の子、派手な髪色とピアスと煙草、を兼ね備えた今時珍しいレベルのTheアマチュアバンド。しかも高校生。NANAかよ。

 

最初「ミッシェル好きなの?」と話しかけられたときは(私がTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTのTシャツ着てた)金髪顔面ピアスのお兄さんが楽屋で煙草吸ってるんだからまあびびった。しかもキャーキャー言われてたバンドのボーカリスト

だけど音楽の趣味がすごく合って、すぐに二組のバンドぐるみで仲良くなった。

 

そんな彼らのバンドが解散した。4人のうち2人が大学受験のため勉強に専念したいとかどうとか。

例の彼は専門に行くからと言って遊び回っている。らしい。

住んでいるところが遠いからプライベートでの関わりは薄い。

 

そんなわけで、ライブハウスでしょっちゅう顔を合わせては打ち上げと称してラーメンや焼肉を食べに行っていたのに、その繋がりは簡単に途切れた。

彼の連絡先を知らないことに、初めて気がついた。

SNSはLINE以外やっていないと言っていた。

他のメンバーはインスタで繋がっているから、その気になれば彼の連絡先を入手することも簡単だろう。

 

だけど、それでは味気ない気がする。

煙草を吸いながら「煙草は吸うな」と言っていた彼に、誕生日プレゼントだと言ってBOOK-OFFの110円の小説を四冊渡してきた彼に、伝えたいことがあるなら、直接会うしかない。

そんな気がする。

 

あの人のことだから、バンドは組んでいなくてもライブハウスに入り浸っていたり、なんなら路上で弾き語りをしているかもしれない。

幸い、彼の最寄り駅は知っている。

 

そのうち、会いに行ってみようと思う。

何度もくだらない言い争いをしたけれど、なんだかんだ私は彼の歌が好きだ。

音楽の専門学校を選んでくれたことを、素直に喜んでいる。

私のステージネームをつけた彼に、最後まで責任をとってもらおう。

 

私の歌を歌ってほしい。

あの人の歌声が必要だ。

1からバンドを作りましょう。